AIで営業メールを書く前に、送る相手を判断する – Arkanos Insights 

AIによる営業メールの作成や送信が効率化される一方、提案先とのミスマッチも増えています。企業情報をもとに、顧客候補・対象外・競合・協業候補を分類し、送るべき相手を判断する営業プロセスについて考えます。

自社のWebサイトを運営していると、問い合わせフォームを通じて、さまざまな営業の連絡が届きます。業務効率化ツールやAI研修、システム開発支援、人材紹介など、その内容もさまざまです。

しかし中には、少し自社サイトを確認すれば、「この会社は顧客ではなく競合に近いのではないか」「むしろ協業先として声をかけるべきではないか」「そもそも、この提案の対象にはならないのではないか」と分かりそうな営業もあります。

こうしたミスマッチは、担当者の確認不足だけが原因とは限りません。営業リストの作成やメール本文の生成、送信が自動化される一方で、「そもそも、この相手に営業するべきか」という判断工程が設計されていないことにも原因があります。

AIによって営業メールを作成・送信する作業は効率化されても、ターゲティングの判断まで高度化されているとは限りません。

事業として正しい提案でも、相手を間違えれば不合理になる

先日、当社にも少し興味深い問い合わせが届きました。

内容は、従業員が頭部装着型の小型カメラを着け、普段の作業を一人称視点で撮影するというものです。収集した映像は、ロボットやAIの学習データとして利用されます。

人間が対象物を見つけ、手に取り、運び、周囲の状況に応じて動作を変える。その一連の映像を集めることは、作業員を支援・代替するロボットの研究開発において意味があります。清掃、品出し、仕分け、調理補助、農作業など、身体を使う現場作業であれば、事業の着眼点には十分な合理性があります。

一方、当社の業務はディスプレイを見ながら行うITコンサルティングが中心です。映像から取得できる身体動作は、キーボードやマウスを操作する程度です。重要な仕事は、資料を読み、問題を見つけ、判断し、関係者と調整する部分にありますが、その思考過程は一人称映像には記録されません。

その一方で、ディスプレイやオンライン会議には、顧客名、設計情報、見積金額、未公開資料など、秘匿性の高い情報が頻繁に表示されます。

つまり当社の場合、学習データとして得られる価値は小さいにもかかわらず、撮影によって生じる情報管理上のリスクは非常に大きいことになります。自社サイトに掲載されている事業内容や会社規模を確認すれば、撮影協力先としての適合性が低いことは、ある程度判断できたはずです。

提案している事業そのものが合理的でも、提案先との組み合わせを誤れば、不合理な提案に変わってしまいます。

営業先は「見込み顧客」と「対象外」だけではない

営業リストを評価するとき、単純に「送る」「送らない」の二択だけで考えると、大切な関係性を見落とします。

企業情報をAIで分析するなら、少なくとも次の四つに分類する必要があります。

顧客候補

自社の商品やサービスによって、相手企業の課題を解決できる可能性がある企業です。業種だけでなく、事業内容、企業規模、組織体制、導入環境などを確認したうえで、提案内容を相手に合わせる必要があります。

対象外

商品やサービスの利用条件に合わない企業です。売上につながる可能性が低い相手へ送信しないことは、営業効率を下げる行為ではありません。自社と相手の時間を守るための判断です。

競合

同じ市場で類似するサービスを提供している企業です。競合へ定型的な営業メールを送れば、自社が相手を理解していないことを示すだけでなく、提案内容や営業方針を不用意に伝えることにもなります。

協業候補

顧客にはならなくても、自社と異なる強みや顧客基盤を持ち、サービスを補完し合える企業です。本来は協業の可能性があったにもかかわらず、顧客向けの定型営業を送ってしまえば、初回接点で関係を損なうことがあります。

重要なのは、分類ごとに次のアクションを変えることです。顧客候補には相手の課題に合わせた提案を行い、対象外には送らない。競合には不用意に営業せず、協業候補には販売ではなく連携の可能性を打診する。分類はメール本文を変えるためだけでなく、接点の持ち方そのものを決めるために行うものです。

返信がない営業メールは、損失がゼロだったとは限らない

営業側から見ると、反応がなかったメールは「未返信」の一件として処理されます。しかし、ミスマッチした営業メールによって失われるのは、送信にかかった時間だけではありません。

  • 送信側が対象抽出、送信、管理に使った時間とコスト
  • 受信側が内容を確認し、不要だと判断するまでの時間
  • 送信企業に対する信頼やブランド評価
  • 将来の取引や協業につながる可能性

特に後半の二つは、通常の営業指標には表れません。

メールが無視されたことはCRMに記録できます。しかし、相手から「自社のことを調べずに営業している会社」と認識されたことや、本来は協業できた企業との接点を失ったことは記録されません。

営業メールを1,000通送り、10件の商談を獲得できれば、数値上は成功に見えるかもしれません。しかし、残り990社がすべて損失ゼロだったとは限りません。無関心で終わった企業だけでなく、不快に感じた企業、配信停止した企業、将来の協業候補だった企業も含まれている可能性があります。

返信がない営業メールは、損失がゼロだったメールとは限りません。

AIを使う場所は、メールを生成する一つ前にある

生成AIを使えば、企業ごとに社名や業種を差し替え、それらしい営業メールを大量に作成できます。しかし、対象企業を理解しないまま文章だけを最適化しても、ミスマッチした提案が丁寧な文章になるだけです。

AIを営業活動に取り入れるなら、まず次のような情報を収集・評価する必要があります。

  • 企業の事業内容と提供サービス
  • 商品・サービスの利用条件との適合性
  • 企業規模や拠点、組織体制
  • 自社との事業領域の重なり
  • 補完できる技術や顧客基盤の有無
  • 情報管理、法規制、契約上の制約
  • 過去の接点や取引履歴

AIは、これらの情報から「顧客候補」「対象外」「競合」「協業候補」を一次分類できます。その結果を人が確認し、営業対象と接触方法を決めた後で、初めてメール生成へ進みます。

もちろん、Webサイトに掲載された情報だけで、相手企業の事情を完全に理解することはできません。AIの判定も絶対ではありません。しかし、明らかなミスマッチを送信前に除外し、判断が難しい企業だけを人が確認することは可能です。

営業担当者の判断をAIに丸投げするのではなく、判断に必要な情報をAIで集め、分類し、人が確認しやすくする。これが現実的な使い方です。

「誰に送らなかったか」も営業品質を左右する

営業活動では、送信件数、返信率、商談化率、受注率などが評価されます。しかし、自動化によって送信件数を増やしやすくなった今こそ、送らない判断も評価する必要があります。

対象外の企業へ送らない。競合に不用意な提案をしない。協業候補には、相手にふさわしい接点を設計する。

こうした判断は短期的な送信件数には表れませんが、自社の信用を守り、将来の取引機会を残します。

営業メールの成果を、返信率や商談化率だけで評価してはいけません。「誰に送らなかったか」も、営業品質を左右する重要な成果です。

AIで営業メールを書く前に、AIでその相手に送るべきかを判断する。営業活動にAIを導入するなら、文章生成ではなく、その一つ前にある企業理解と判断工程から設計する必要があります。

Arkanosの支援について

Arkanosでは、営業活動を単純に自動化するのではなく、対象企業の選定条件や判断基準を整理し、AIを実務の中で機能させるための業務設計を支援しています。

「営業件数は増えたものの成果につながらない」「自社商材に適した企業の見極めに時間がかかる」といった課題についても、現在の営業プロセスを整理したうえで、AIを活用できる範囲をご提案します。