仕事道具は「最良」ではなく「最適」で選ぶ – Arkanos Insights
仕事道具を選ぶとき、重要なのは一番高性能なものを選ぶことではなく、自分の使い方に合っているかどうかです。バッグや充電器、トラックボールの選び方を通じて、業務システムやCMS導入にも通じる要件定義の考え方を整理します。
「TUMIですか。良いの使ってますね。」
仕事で使っているバックパックを見て、そんなことを言われることがあります。
確かに、TUMIのバッグは決して安くありません。ただ、私自身は「TUMIだから」という理由でこのバッグを選んだわけではありません。
仕事で使うノートPCを無理なく持ち運べること。必要なものがきちんと収まること。ポケットの配置が合理的で使いやすいこと。耐久性があり、長く使えること。そして、一泊程度の出張ならこのバッグ一つで済ませられること。
そうした条件を考えていった結果、今のバックパックに行き着きました。
仕事が変われば、必要なバッグも変わる
以前からTUMIばかりを使っていたわけではありません。
もっと前には、PORTERやLAGASHA、LIN-KUなどのバッグも使っていました。その後、仕事でノートPCを持ち運ぶ機会が増え、「PCを安全に持ち運べること」がバッグ選びの重要な条件になりました。
そこで使い始めたのが、TUMIのトートバッグです。
ところが、PCや周辺機器を入れたバッグを手で持って移動していると、今度は重さが気になるようになりました。
そこで、「PCを安全に運べる」という条件はそのままに、「背負って移動できる」「一泊程度なら出張にも使える」という条件を加えて選び直した結果、現在のバックパックになりました。

今振り返って言葉にしてみると、その時々の仕事のスタイルに合わせて、必要な条件を整理し直していたことになります。
もし同じ条件を満たすものがACEでもPORTERでも、あるいは別のメーカーでも、それが自分にとって一番使いやすければ、そちらを選んでいたと思います。
ブランドは、選択の目的ではありません。
最上位モデルが最適とは限らない
最近、出張などに持ち歩くためのUSB充電器を買いました。
選んだのは、Anker Primeシリーズの100Wモデルです。
同じシリーズには、さらに大きな出力に対応し、液晶ディスプレイを備え、スマートフォンから細かな設定までできる上位モデルもあります。
機能だけを比べれば、そちらの方が明らかに上です。
しかし、自分の使い方を考えると、そこまでの機能は必要ありませんでした。
MacBook Airなどを充電するには100Wあれば十分です。出張ではガジェットポーチに入れて持ち歩くので、小さく軽いことには大きな価値があります。
そして何より、充電器をスマートフォンにつないで細かな設定をする自分の姿が想像できませんでした。
使わない機能のために、価格が上がり、サイズも大きくなる。
それなら、自分が必要とする性能を満たした上で、小さく軽い方がいい。
「最良」と「最適」は、必ずしも同じではありません。
道具による小さなストレスを減らす
マウスの代わりにトラックボールを使っているのも、似たような理由です。

- 私が使っているKensingtonのSlimBlade Proは、トラックボールの中でも少し珍しい部類の製品かもしれません。身近で同じものを使っている人はあまり見かけませんし、価格も決して安くありません。
それでも、長時間PCを操作する仕事では、腕を大きく動かさずに操作できることや、手を置いたまま使えることに価値があります。多くの人にとっての定番ではなくても、自分の使い方に合っているなら、それは十分に「最適」な選択になります。
もちろん、マウスでも仕事はできます。
ただ、毎日長時間PCを操作していると、マウスを動かすために腕を動かすという小さな動作も積み重なります。トラックボールなら、基本的には手を置いたまま操作できます。
一回一回の違いはわずかです。
それでも、毎日使う仕事道具であれば、その小さな違いは何年も積み重なります。
仕事道具を選ぶとき、私は単純に「高性能なもの」を探しているわけではないのだと思います。
仕事そのものとは関係のないストレスを、できるだけ減らしたいのです。
バッグについて考えたくない。
充電について心配したくない。
入力機器を操作すること自体に疲れたくない。
道具の存在をあまり意識せず、本来やるべき仕事に集中できる。
それが、実用品としての仕事道具に求めていることなのだと思います。
ブランドにも「実用品としての価値」がある
一方で、ブランドをまったく評価しないわけでもありません。
長く使う仕事道具であれば、故障したときに修理できることや、問い合わせ先がきちんと存在することも重要です。
以前気に入って使っていた国内のバッグブランドの中には、現在では事業を縮小したり、ブランドそのものがなくなったりしたものもあります。
そうした経験をすると、長く続いている定番ブランドには、単なる知名度とは別の価値があることにも気づきます。
製品を買ったあともサポートを受けられること。
必要になれば修理できること。
数年後にも同じブランドが存在している可能性が高いこと。
これは、仕事道具を長期的に「運用」する上では立派な価値です。
ブランドだから買うのではなく、長く安心して使えるという要素も含めて選ぶ。
そんな距離感が自分には合っています。
考えてみれば、これは「要件定義」だった
ここまで書いていて気づくのは、仕事道具を選ぶときにやっていることが、システム開発やシステム導入における「要件定義」とよく似ていることです。
何をしたいのか。
絶対に必要なものは何か。
あるとうれしいものは何か。
予算はいくらか。
実際に使い始めたとき、どう運用するのか。
長く使い続けられるか。
こうしたことを考えて候補を比較する。
私たちは「要件定義」という言葉を使わなくても、普段の買い物で似たようなことをしています。
家庭によっては、少し高いものを買うときに、
「なぜこれが必要なのか」
を奥さんや旦那さんにプレゼンした経験がある人もいるかもしれません。
そのとき、
「これが一番高性能だから欲しい」
だけでは、なかなか説得力がありません。
「今使っているものにはこういう問題がある。この製品ならそれを解決できる。毎日使うし、長く使えるので、この価格でも納得できる」
そこまで説明できれば、ずいぶん話は変わります。
それはもう、ちょっとした提案書です。
業務システムも、使われなければ意味がない
業務システムの導入でも、同じことが起こります。
製品を調べれば、魅力的な機能はいくらでも見つかります。
AIも使える。高度な分析もできる。ダッシュボードもある。複雑なワークフローにも対応できる。
それらが本当に必要なら、もちろん導入する価値があります。
ただ、そこで一度考える必要があります。
その機能は、本当に現場で使われるでしょうか。
導入したものの、現場ではほとんど使われていない。
高度な機能があるのに、結局一部の基本機能しか使っていない。
入力項目が多すぎる。承認フローが細かすぎる。便利なはずの分析画面を、実際にはほとんど誰も見ていない。
システム導入では、そうしたことが珍しくありません。
機能が多いほど、導入や教育、運用の負担が増えることもあります。現場にとっては便利になるはずの機能が、かえって入力や確認の手間を増やしてしまうこともあります。
だから場合によっては、
「そこまで今のフェーズで必要でしょうか」
「まずはここまで導入して、実際の運用を確認してから次のフェーズで追加しませんか」
という判断も必要になります。
機能を削ることは、必ずしも妥協ではありません。
使われる仕組みを作るための選択であることもあります。
「何が一番すごいか」ではなく、「何が一番合っているか」
仕事道具も、業務システムも、選択肢を調べ始めれば上には上があります。
より高性能なもの。
より多機能なもの。
より高価なもの。
しかし、それが自分や自社にとって最適とは限りません。
大切なのは、「何が一番すごいか」ではなく、
「自分たちの使い方に、何が一番合っているか」
を考えることです。
そして、導入したあとに道具の存在そのものを意識せず、自然に使い続けられるようになれば、それはかなり良い選択だったと言えるのではないでしょうか。
要件定義は、システム開発だけの特別な作業ではありません。
私たちは普段の生活の中でも、案外同じようなことをしています。
バッグを選ぶときも。
充電器を選ぶときも。
そして、業務システムを選ぶときも。
必要なものを整理して、実際に使う場面を想像し、自分たちにとっての「最適」を探す。
結局のところ、良い選択の基本は、そんなところにあるのだと思います。
Arkanosでは、業務システムやCMS、マニュアル制作環境の導入において、現場で実際に使われることを前提とした要件整理・導入支援を行っています。