プロンプトの次にあるAI活用 – Arkanos Insights
生成AIは、正解を検索して返す仕組みではありません。ハルシネーションや画像生成の仕組みからAIの特性を理解し、事実確認では根拠を求め、発想では自由に考えさせるなど、人間とAIが仕事を進めるための考え方を整理します。
生成AIの活用方法として、「便利なプロンプト集」や「このプロンプトを使えば、こんなことができる」といった情報を目にする機会が増えました。
こうした情報は、生成AIを使い始めるきっかけとして有効です。
何を頼めるのか分からない段階では、具体的なプロンプトの例があることで、「こんな使い方もできるのか」と気づくことができます。
一方で、実際の仕事で生成AIを使っていると、一つのプロンプトだけで仕事が完結することは、それほど多くありません。
要求を整理してもらい、そこから考えられる案を出してもらう。その中から人間が良さそうなものを選び、さらに深掘りする。必要なら図にして、文章にして、最後にはできあがった資料をレビューしてもらう。
このように、生成AIの役割を変えながら、人間とAIが何度もやり取りすることで仕事が進んでいきます。
では、生成AIをより高度に使うために必要なのは、より複雑なプロンプトを書く技術なのでしょうか。
その前に、そもそも生成AIがどのように答えを作っているのかを考えてみます。
AIは「すごい検索エンジン」ではない
生成AIを使っていると、まるで膨大な情報の中から質問に合った答えを探してきているように感じることがあります。
しかし、生成AIは単純に「すごい検索エンジン」として動いているわけではありません。
検索エンジンは、すでに存在するWebページや情報を探します。
一方、生成AIは、与えられた文脈や学習したパターンをもとに、その場で回答を生成します。
文章であれば、「この文脈なら、この続きが自然だろう」という予測を積み重ねていくことで、最終的に一つの回答になります。
ここには重要な違いがあります。
検索であれば、基本的には「どこに書いてあるのか」という情報源が存在します。
しかし生成AIの場合、返ってきた文章と同じものが、どこかに存在しているとは限りません。
AI自身が、その場で作っているからです。
これは生成AIの大きな能力であると同時に、注意しなければならない特徴でもあります。
なぜAIは、もっともらしい間違いを答えるのか
生成AIについて語るとき、「ハルシネーション」という言葉がよく使われます。
AIが、事実ではない内容を、あたかも事実であるかのように回答してしまう現象です。
ここで少し誤解しやすいのが、「AIが嘘をついている」という捉え方です。
AIが人間のように、
「本当は違うけれど、こちらのほうが都合がいいから嘘をつこう」
と考えているわけではありません。
通常の文章生成そのものは、文章を作るたびに「これは事実として正しいか」を外部の情報源で確認しているわけでもありません。
文脈として自然なものを生成した結果、それが事実と一致することもあれば、一致しないこともあります。
つまり、
「自然な回答」と「事実として正しい回答」は、同じものではありません。
この違いを理解していないと、「AIがこれだけ自信ありげに答えているのだから、きっと正しいだろう」と考えてしまいます。
しかし生成AIにとって、文章としての自然さと、事実としての正しさは別の問題です。

だからこそ、事実が重要な仕事では、出典や根拠を確認する必要があります。
画像生成を見ると、「生成する」という意味が分かりやすい
生成AIの「生成」という特徴は、画像生成を考えるとイメージしやすくなります。
人間が絵を描くときには、白い紙やキャンバスに輪郭を描き、そこに色を付け、細部を仕上げていくことがあります。
現在広く使われている拡散モデルによる画像生成は、それとはかなり違います。
最初にあるのは、ランダムなノイズです。
昔のテレビで何も映っていないときに表示された「砂嵐」を想像すると分かりやすいかもしれません。
そこから少しずつノイズを取り除きながら、指示された内容に合う方向へ画像を変化させていきます。
「夕暮れの街を歩く黒猫」という指示なら、最初は意味のないノイズだったものから、少しずつ色や形が現れ、街らしい構造ができ、猫らしい形ができ、最終的に一枚の画像になります。

感覚的には、
「テレビの砂嵐の中から、少しずつ絵を発掘していく」
ようにも見えます。
もちろん、本当に最初から完成した絵がノイズの中に隠されているわけではありません。
重要なのは、AIがどこかに保存されている「黒猫の画像」を探して持ってきているわけではないということです。
それらしい方向への変化を繰り返した結果として、それまで存在しなかった画像が生成されます。
文章と画像では具体的な仕組みは異なりますが、「既存の完成品を検索して取り出しているわけではなく、その場で新しいものを生成している」という点では共通しています。
「想像する」ことは、生成AIの欠点ではない
ここまで考えると、生成AIが事実とは異なるものを作ってしまうことは、単純に「AIの欠点」として片付けられないことが分かります。
なぜなら、その生成能力こそが、アイデアを考えるときには大きな武器になるからです。
たとえば、あるシステムについて、
「この要求を実現する方法をいくつか考えてほしい」
と依頼したとします。
このとき欲しいのは、どこかに存在する一つの正解ではありません。
「こういう構成も考えられる」
「この機能を外部サービスに分離する方法もある」
「最初は機能を限定して段階的に導入する方法もある」
といった複数の可能性です。
ここでは、生成AIを事実だけに縛る必要はありません。
むしろ、ある程度自由に考えさせることで、人間だけでは思いつかなかった選択肢が出てくることがあります。
ただし、そのアイデアが本当に妥当なのかは別の問題です。
技術的に実現可能なのか。
予算に合うのか。
顧客の要求に合っているのか。
運用できるのか。
それを評価するのは、人間の仕事です。
AIに自由に考えさせることと、その回答を無条件に採用することは、まったく違います。
事実を扱うときは、逆にAIを縛る
一方で、過去の事例や市場データ、法令、製品仕様などを調べる場合は、生成AIの自由さが問題になることがあります。
たとえば、
「過去の導入事例を調べてまとめてほしい」
という依頼に対して、実在しそうな架空の事例を作られてしまっては困ります。
このような仕事では、
「出典を明示する」
「この資料だけを根拠にする」
「該当箇所を示す」
「記載されていないことは推測しない」
といった制約が重要になります。
お客様との会話の中でリクエストを確認し、それに対する提案を考えるときも同じです。
まずは、お客様が何を求めているのか、どのような条件や課題があるのかを正確に整理する必要があります。
この段階では、AIに自由な想像をしてもらう必要はありません。会話の記録や提供された資料などをもとに、事実と推測を分けながら整理することが重要です。
ところが、その次に、
「このリクエストに応えるために、どんな提案が考えられるか」
と考える段階になれば、今度は生成AIの自由さが役に立ちます。
そして案が出てきたら、
「この方法は実際に実現可能なのか」
「同様の事例はあるのか」
と、再び根拠を確認します。
つまり、同じ仕事の中でも、
事実確認ではAIを縛り、発想ではAIを自由にし、検証では再び根拠を求める。
生成AIを使う仕事は、この往復になります。
一つのプロンプトで仕事を終わらせない
生成AIの活用方法として、「プロンプト100選」のような情報を見かけることがあります。
こうしたプロンプト集は、決して意味がないものではありません。
生成AIを使い始めたばかりの人にとっては、「こんな頼み方ができる」というアンチョコとして役に立ちます。
しかし、実際の仕事は一つのプロンプトだけで完結するとは限りません。
たとえば、顧客から新しいシステムについて要求が届いたとします。
まずAIに、
「この要求の概要を整理して」
と頼みます。
その結果を人間が読み、
「この案件では、ここが重要そうだ」
と判断します。
次に、
「では、この部分を実現する方法をいくつか考えて」
とAIに依頼します。
複数の案が出てきたら、人間が、
「この案と、この案が良さそうだ」
と選びます。
そして、
「この二つをもう少し深掘りして」
「顧客に説明するなら図があったほうが分かりやすい」
「提案書に使える文章にして」
と、AIとのやり取りを続けます。
最後に人間が提案資料を作り、
「この資料を顧客の立場からチェックして」
と、今度はAIをレビュアーとして使うこともできます。
この一連の仕事の中で、AIの役割は何度も変わっています。
最初は情報を整理するアナリスト。
次はアイデアを出す相談相手。
その次は設計を深掘りする補助者。
さらに文章や図を作る編集者。
最後には成果物を確認するレビュアー。
最初に「あなたは一流のコンサルタントです」と定義して、すべてを一度に任せる必要はありません。
その時々で必要な仕事をAIに依頼し、返ってきたものを人間が評価し、次に何をするのかを決めればよいのです。
これは、同僚と一緒に仕事を進める感覚に近いかもしれません。
プロンプトを書く技術から、AIと仕事を設計する技術へ
生成AIを使いこなすというと、「良いプロンプトを書くこと」に注目が集まりがちです。
もちろん、何をしてほしいのかを明確に伝えることは重要です。
しかし、それだけで仕事がうまく進むわけではありません。
より重要なのは、
いまAIに何をさせているのかを、人間が理解していることです。
事実を確認しているのか。
与えた情報を整理しているのか。
新しいアイデアを考えているのか。
仮説を検証しているのか。
成果物をレビューしているのか。
それによって、AIに与える自由度も、回答に求める根拠も変わります。
事実が必要なら、出典や根拠を求める。
アイデアが必要なら、あえて自由に考えさせる。
出てきた案が妥当かどうかは、人間が判断する。
必要であれば根拠を調べ、またAIと一緒に考える。
生成AIを仕事で活用するということは、魔法のようなプロンプトを覚えることではありません。
AIが得意なことと苦手なことを理解し、どこまで自由に考えさせ、どこから根拠を求め、どこで人間が判断するのかを設計すること。
プロンプトを書く技術の先には、AIと仕事を進める技術があります。
生成AIがより身近になるほど、重要になるのは「AIに何と聞けばよいか」だけではなく、「AIと人間で、どう仕事を進めるか」なのだと思います。